newdubhall is a sound label since 2017. experimental dub music from the far east.

talking place COMPUMAインタビュー:〈後編〉 ─広大な音のフィールドを歩き続ける、ある視点─

talking place#13
with COMPUMA

ニュートラルな音

『Innervisons』はひとつ先方からの青写真としてはあったと思うんですけど、例えば脚本とか読んだ段階で、なんとなく想起した作品みたいなのはあったりしたんですか?

COMPUMA穴迫さんからミニマル・ミュージックと聞いて、いわゆる現代音楽のコンテンポラリーなミニマル・ミュージックの巨匠たちの名前がまったくよぎらなかったというと嘘になりますが、それよりも今回頭をよぎったのは、インドの古典音楽ですね。メディーテショナルなラーガと言いますか、その延長線上で頭に浮かんだのはザキール・フセインの一つの作品。昔、確かサラーム海上さんがインドに行ったときに見つけて買ってきて、当時エルスールレコードやロス・アプソン、当時働いていたタワーレコード渋谷店5F周りで極地的にヒットして、その後国内盤CDまで発売されたという、タブラ・マスター巨匠ザキール・フセインの1995年の音響彫刻的な怪作アルバム作品があって。そのアルバム収録曲で、桃源郷チルアウト・アンビエント/ニューエイジ宇宙、タブラ&ダビー実験的、完全手作業によるミニマル・ミュージックというか。その曲がイメージとして頭の中で鳴ってたりしてました。

音を選ぶ時に心がけたところってありますか?

COMPUMA自分が持っている機材の特性というか、シンセサイザーなど、それが上手くはまればよかったんですが、今回に関しては、なんと言いますか、ニュートラルな音──さきほどの俯瞰的なという感覚もそうなんですが、そういった何でもないイメージの音を作るという事が最初は難しかったかもしれません。自分のいくつかのいつも使うような機材でそういったイメージに合わせた音を出そうと試みたのですが、なかなか難しかったです。

ニュートラルな音というのは、わかりやすくいえば今回は使われてないと思いますけど、TB-303みたいなキャラの強い音と反対という感じですよね。

COMPUMAそうですね、303、もちろん最高ですが、ああいった個性の強い音がはまればよかったんですが、今回はそういう感覚ではなかったというか。抽象的ですみません。機材として匿名性の高い音のほうが合う感じだったんですよね。でも、まあTB-303くらいになれば、あのアシッディな世界観は普遍的な音とも言えるので、逆に合ったかもしれませんね(笑)。演劇演出を構成する要素の一つとしての音楽という事で考えると、今回は、キャラの強い音をうまくコントロールできなかったんですよね。

そういう「キャラの強い音」が松永さんの脚本なりを読まれて思い描いていた音楽のイメージと合わなかったということですよね。

COMPUMA最終的にはそうですね。当初は「この機材あの機材で、こんな感じの音」みたいに組みて立ていくようなぼんやりとした妄想アイディアはあったんですけど、試してみたら、「あれなんか合わないな」と思うことが多かったですね。

内田さんへのオファーに関しては、特にリクエストなどはされてないんですか?

COMPUMAとくにこちらからはなにもないですね。アルバム全体を渡して選んでいただくというのは申し訳ないと思ったので、数曲を選んで「この中からどうですか?」という感じで選んでいただきました。音源があがってきたときは「きた!!!」という感じで 「内田さんにお願いして本当によかった。これでようやくアルバムとして着地できる」と感動してひそかに舞い上がってました(笑)。

今回マスタリングは中村宗一郎さんですが。

COMPUMAこれまで、自分の作品に関してはhacchiさんにマスタリングまでお願いすることが多かったんですけど、今回はミックスまでということでひとつ区切りをつけて、マスタリングに関しては、客観的なジャッジを入れてみて、新しい試みをしてみようと。中村さんへのマスタリングのオファーに関しては、もちろん自分が、中村さんがマスタリングをやられている作品の音が好きだというのは前提としてあったのですが……もうひとつ大きかったのは、昨年スマーフ男組「スマーフ男組の個性と発展」のアナログ化でのリマスタリング、OGRE YOU ASSHOLE「朝」の悪魔の沼リミックスでのマスタリングでもお世話になっていて、、今回に関しては、海外エンジニアの方にマスタリングを頼んでみる。とかも一瞬候補として頭に浮かんだんですが、細かなやりとりを考えたときに、コミニケーションのことも考えると、それを伝える自分の英語力にも不安がありましたし、今回は思いきって中村さんに相談お願いしてみようと。中村さんを通って世に出されることによって、この音楽が世に出しても大丈夫な作品になるんじゃないかと。そういう願いと安心感も込めてという、そこも大きかったです。

音の部分はそこで完結ということだと思いますが、今回はさらにアートワークもいつもの五木田(智央)さんの作品と、デザイン全般を鈴木聖さんのふたりなわけですが、音を渡す以外になにかコンセプトなどを話されました?

COMPUMAタイトルと音、経緯など簡単な説明はお伝えしたのですが、それ以外は特になくて、ひとつあるとすれば、鈴木さんとの打ち合わせで、今回のテーマとして「不親切」にしましょうとか。購入いただいた方がいろいろと想像してくれるようなものにしましょう。あまり説明的な情報を入れないようにしましょう。などは少し話しました。最小限の情報量にしようという。

「Vision (Flowmotion In Dub)」のMVは映像作家・住吉清隆さんと写真家・小山和淳さんが手がけられて、「水」のイメージですよね。そういえば今回、穴迫さんも「水面に水滴が垂れて、 それが波紋のように広がっていく音です」とライナーで綴られていますが、このあたりは偶然?

COMPUMAそういわれてみればそうですが、元々テーマに水があってというのはなくて。あるとすれば、五木田さん、鈴木さんのアートワークから何か発展させられたらということ、そして、MV制作にあたってキーワードとして言葉に出たのが、宇宙観はもちろんあったのですが、自然の摂理や森羅万象、陰陽、潮の満ち引き、そして、何も起こらない感覚みたいなものをどこかしら世界観として何かできたらということで。住吉清隆さんには、いつも自分のMVをお願いしていて、写真家の小山さんは住吉さんから今回のプロジェクトで紹介していただきました。

なんというかさっきいった匿名性という部分で、わりと水って形がなくて、色もないって匿名性の最たるものだなと。

COMPUMA言われてみればたしかに。楽曲自体も宇宙的でスペーシーながら、寄せては返す波のような、どこか自然の摂理みたいなところを目指して楽曲を制作していたところもありますし、おそらく住吉さんがそのイメージのなかで映像としてそれを発展させてああいう世界にしてくれたんだと。

初期衝動と実験性

と、アルバムの話はこのへんで、最後にちょっと別の話を。Newdubhallはその名前の通りダブのレーベルで、コンピューマさんはDJとしてバイヤーとして、Undefinedの作品のファンだと言われていて、もちろん『STRICTLY ROCKERS Chapter.13 BETRAYAL ~随ィ喜!随ィ喜!MIX』とか『Cosmic Force -betrayal chapter 2-』みたいなレゲエのミックスも発表されていて。そのへんもあって、ダブというお題でレコードを持ってきてもらったんですが。

COMPUMA取材が決まった後にそれを言われてひそかに悩みましたよ(笑)。Undefinedさんは、正統なモダン・レゲエ&ダブでありながら、音数の少ない「間」の世界というか。ダブをライヴ・エレクトロニクス的な手法の延長線上として聴くとすれば、Undefinedさんは現行でそれを作品として提案されている感覚があるアーティストだと思っておりまして。そんな大好きなUndefinedさんのレーベルからの取材ということで、その流れからレゲエ・ダブで1枚を選ぶというのはなかなか難しくて(笑)。

すいません(笑)。

COMPUMAなかなか絞れなくて、話の流れで決めようかなといろいろ持ってきました。で、いろいろ考えてみて、自分にとって一番大きいのはジャー・ウォブルなんですよね。ここ最近の作品はほとんど聴いてないんですけど、1970年代後半1980年代の初期作品はすごい好きでかなり影響を受けました。この「V.I.E.P. Featuring Blueberry Hill」という12インチは、ジャー・ウォブルがPiLに入ってセカンドアルバム『Metal Box』リリース後に脱退して、その後にソロ・アルバムをリリース、その後のEPという感じだったと思います。自分的にはレゲエとかダブをより聴くようになったきっかけになった作品ですね。リアルタイムで買ったわけではないんですが、20代はじめ若かりし頃、彼の作品をいろいろ掘ってくうちに見つけたものです。

どのあたりにひっかかったんですか?

COMPUMA初期衝動でやってしまうみたいな実験性、パンク的なアティチュードとあまりそこまでうまくまとめきれていない歪さやヘンテコさもあって。アンバランスさというか、「ジャーン」とか「ギュワーン」の音色がいちいちかっこいいんですよね。そういう一音の響きのかっこよさがつまっている作品という感じで。そういうことにもすごく影響を受けた1枚ですね。

なるほど。

COMPUMAルーツ・レゲエ・ダブの名盤と言われるような作品も聴くのですが、自分的な感覚のセレクトというとやはりこの作品ですかね。ファッツ・ドミノ「Blueberry Hill」のカヴァーをやっていて、アルバムには入っていない“Computer Version”というのがあって……もう、“Computer Version”と書いてあるだけで最高でOK!じゃないですか(笑)。

たしかに(笑)。

COMPUMA発信器の音とか、このちょっと適当な感じというか、そういうのにもグッときて。MIXCD『STRICTLY ROCKERS』シリーズでのCOMPUMA編のサブ・タイトル「BETRAYAL」も、ジャー・ウォブルのソロアルバムのタイトルから拝借させていただいてました(笑)。それと、ヤン富田さんの影響もあるんですが、マッド・プロフェッサー『Dub Me Crazy !!』シリーズからはいろいろなことを教わったと思います。このシリーズを通して、ジャケット・アートワークも含めて大好きなんですが、あらためて『1』が最高で。いろんな音もテンコ盛りで(笑)。

虫声とかもやってますよね。

COMPUMAあと『2』(『Beyond The Realms Of Dub (Dub Me Crazy! The Second Chapter)』)のジャケットでは宇宙に浮かんでいる、もうこれだけで最高じゃないですか? あとテープ喰ってる写真とか(『Dub Me Crazy Part Five: Who Knows The Secret Of The Master Tape?』の裏ジャケット)。あとは『A Caribbean Taste Of Technology』はトロピカルでエキゾチックでスティールドラムですし……『Dub Me Crazy Part 7: The Adventures Of A Dub Sampler』もテクノやエレクトロの世界観で裏ジャケットでまたテープ喰ってるし(笑)。本当、このあたりは当時エレクトロを堀りながら、同じ様な感覚で、毎回どの番号を買おうかなとワクワク買い集めてました。でも、いろいろな意味で個人的には1番が今の気分で好きです。他のアーティストでは、例えばUB40の「Tyler」って名曲のイントロのフィードバック音とか。当時ラジオで聴いてすごく好きになって、その部分を聴きたいがために何回も聴いたり……あとは、ラス・マイケルのニューエイジ・ナイヤビンギなアルバム(『Mediator』)。

たしかにこのシンセの音は……ニューエイジですね。

COMPUMA此処グラスルーツで独り会をやってた頃、朝方によくかけてました。

さていろいろ話していただきましたけど、アルバムを出されていかがですか?

COMPUMAhacchiくんはじめいろいろな方にサポートいただいてソロ名義で作品を出すことができました。結果的に長い活動になってしまってるんですが、たまたま今のタイミングで出すことができたという感じですかね。でも、どこか自然な流れというか、自分ではあまりそういう感覚はないのですが、時間が経ったという意味では、自分はいつの間にか長いキャリアになっている中で、こうやって音楽活動を続けられていることは本当にありがたいことだと思っています。そして、その上で活動での自然な流れの結果としてこの作品を世に出せたことには感謝しかなく、本当にうれしく思っています。

location:東高円寺 GrassRoots
interview date:2022.06.29